名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)1788号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕(一) <証拠>を綜合すると昭和四五年五月二三日頃、当時被告会社名古屋支店支店長代理であつた沢田武が原告方店舗で原告に対し被告会社名古屋支店の資金ぐりに必要であると称して被告会社のため金銭借用方申入れ、之に応じた原告より現金一〇〇万円を弁済期は同年六月一五日と定めて借受け、その支払のため原告主張の手形要件をそなえた(但し、振出人らんは「名古屋市北区西杉町一―八、寺岡ドアエンジン株式会社支店長代理沢田武」と記されている)約束手形一通を振出交付し、原告は之が所持人として支払日の翌日右手形を支払場所に呈示したが「偽造かつ印鑑相違の理由」で支払拒絶されたこと、原告は右貸金の返済を未だ受けていないことを認め得て反証もない。
(二) 原告は昭和四五年五月二三日当時沢田武に手形振出、金銭借用の権限を含めて被告会社のため裁判外の一切の行為をなす権限があつたと主張するが右事実を認め得べき証拠がない。
当時沢田武が被告会社名古屋支店長代理の職にあつたこと、被告会社名古屋支店長に手形振出の権限のあつたこと、右沢田武に被告会社製品の販売と之に関する金銭授受の権限のあつたことは当事者間に争いないが、それ以上の対外的な権限が右沢田に賦与されていたことを認むべき直接証拠は一つもない。「支店長代理」の職名を有する者は支店長の有する権限を一切代理し得る権限を有するのが通例であると即断することはできない。何となれば支店長の職責中対内的な業務執行に限り或いは対外的な行為の中でも特定種類の行為に限り支店長代理に分掌させる例も世に稀ではないからである。
本件の場合も<証拠>によると被告会社名古屋支店には支店長が任命されて居り、週一回宛にせよ支店でその職をとつていたこと、被告会社名古屋支店の担当職務はオートドアの販売施工を中心にしていたこと、被告会社本店は東京都にあり、名古屋支店との連絡は至便とみられることの諸事実を認め得るものであり、右諸事実に照す時には被告会社名古屋支店長代理に手形振出並金銭借入の権限がなかつたとしても不合理不自然とみることはできない。
(三) 次に商法第四三条に基く原告の主張につき考えるに、原告は沢田が「被告名古屋支店長の代理」という特定事項の委任を受けたと主張するが、原告の全立証によるもかかる委任の事実を認めることができない。沢田が「支店長代理」に任命せられたことを以て直ちに原告主張の如き内容の委任があつたと認め難いことは前述したとおりである(ついでながら真実かかる内容の授権のあつた場合それが商法第四三条にいう「特定種類」「特定事項」の授権に該当するか否か疑問である。)。
沢田武が被告名古屋支店において、対外的には販売並集金に関する権限を有していたことは被告の自認するところであるから、販売並集金面において部分的包括代理権を有していたとしても本件において同人がなした本件手形の振出並金銭借用の行為は沢田の前記権限と関連性に乏しいから之を沢田の部分的包括代理権の範囲内と認めることは到底不可能である。
然らば商法第四三条に基く原告の主張はすべて失当といわなければならない。
(四) 原告は「支店長代理」は「支店の営業上の主任者たることを示すべき名称」であるとして本件につき商法第四二条の適用あるべきことを主張する。しかしながら「支店長代理」なる用語は支店長欠員時の代行者の場合は別としてその上に支店長の存在することを示すものであるから「主任者」たることを示す名称とはいい難いし、又取引の実情からみても上記の如く支店長代理はすべて支店長同様裁判外の一切の権限を行使しているとは解し難いから支店長欠員時の「支店長代理」の場合を除いては之に商法第四三条を適用するのは正当でないと考える。本件の場合は上記認定の如く支店長が現存して居り、常勤ではないにしてもとにかく少なくとも週一回は支店において支店長事務をとつていたものであるからその下で支店長代理を勤めた沢田武の行為につき商法第四二条を適用するのは相当でないと考える。(夏目仲次)